2024年春、3名のミャンマー人がnojimokuに入社した。
チョーくん、ウィンさん、ターさんの男性1名、女性2名である。
これまで熊野に移住してきた外国人をアルバイトやパートで短期間雇うみたいなことはあったが、現地まで行って面接しての外国人を採用するというのは初めてであるから、正直なところ我々には不安がたくさんあった。
熊野市は今どんどん人口が減少していて、総人口は15,000人を切った。人手不足はnojimokuだけの話ではなく、熊野で事業を行う皆の大きな課題である。
そんなときに同世代の経営者仲間との話しの中で「みんなで協力して外国人を雇い、熊野にコミュニティーを作ってはどうか」というアイデアが持ち上がったのである。
1社だけで外国人を受け入れると、彼らが熊野の暮らしに馴染めず孤立してしまう可能性がある。でも何社も一緒になれば、仲間が増えて寂しさを感じにくいし、相談相手もできる。こうして、僕と同世代の経営者数人がまとまってミャンマー人の採用を一斉に行い、この度、チョーくん、ウィンさんとターさんがnojimokuのメンバーに加わってくれたわけだ。
彼女たちの配属先は、木材の仕上げ加工を担当する部署。
そこで彼女たちを指導するひとりが、今年86歳になる現役職人の福岡さんである。年齢差60歳以上、しかも国籍や言葉が違うということで、僕も最初は「本当に大丈夫かな」と不安だった。
ところが、そんな心配はあっさりと吹き飛んだ。
ウィンさんとターさんは、片言の日本語で一生懸命に質問しながら、福岡さんの手元を食い入るように見ては、ノートにメモを取っている。福岡さんが「こうするんやで」と実演して、2人が見よう見まねで作業をし、時々うまくいかないと福岡さんは「おしいおしい、もういっぺんやってみ」と繰り返し教える。
言葉の壁とは対した問題ではなく、むしろ“見て盗む”というものづくりの基本形が鮮やかに機能しており、僕は感心してしまった。

お昼休みには3人揃ってお弁当を食べていて、その光景がやけにほのぼのしている。
ある日、福岡さんのご家族から「うちの父が毎日楽しそうに出勤して、帰ってきてもウィンさんとターさんの話をしている。とてもありがたいです」と会社にメッセージが届いた。
86歳の大ベテランが若い彼女たちに技術を伝えることで、まだまだ自分のやるべきことがあると奮い立っている。そのトリガーとは彼女たちのまっすぐな学ぶ姿勢であり、「この子たちに全部教えきるまでは絶対に辞められん」と、86歳の職人魂に火をつけたのだ。
そんな彼女たちとの交流で印象に残っているのが、昨年10月のハロウィンパーティーである。
僕らの一族と親しい友人を誘い、チョーくん、ウィンさん、ターさん3人にも声をかけ「どうせやるならみんなで仮装して盛り上がろう」という話になり、ワイワイ集まった。彼女たちはオバケのような衣装を身に着けて登場するわ、ミャンマーの伝統衣装まで披露するわで、もうかなりの本気モードでびびったのだが、こういうときでも全力で楽しもうとする彼女たちの姿勢が、僕にはとても新鮮で、とても楽しかった。

また、別の日にはチョー君が、熊本に住む彼女が熊野に遊びに来ているということで、僕らに紹介してくれた。その時にチョー君が来ていたTシャツには、大きく「愛」と書かれていた。あまりにもストレートに自分の感情を表現した彼の出で立ちに「なんとピュアな男だろう」と胸が熱くなった。
自分の思いをストレートに掲げられる姿というのは、そのまま彼の人柄を物語っている。こういう所が、彼が誰からも好かれる所以なのだと感じた。

振り返ってみると熊野の人手不足に頭を抱えていた僕たちは、そもそもは外国人を人手不足の穴埋めとして雇用しようと考えたわけだが、ミャンマーからやって来たこの若者たちから、私はもとよりnojimoku全体に対してもかなり大きな影響を与えていると思う。最初の頃は「国籍や言葉の問題が心配だ」と尻込みしていたけれど、実際一緒に働いてみると、何事にも前向きにチャレンジする彼らの姿勢に、僕たちは背中を押されている感じがする。大きな決断をして熊野までやって来たそのエネルギーに、僕らも負けていられないぞと刺激をもらっているのだ。
今回の事を経て僕が思うに、これからはnojimokuの採用にあたって、学歴とか年齢や性別、国籍などはあまり意味を持たなくなると思う。
大切なのは、人生や暮らし、仕事に対してどれだけの熱量を持っているか。そして、nojimokuのビジョンや価値観に共感できるか。そういう人たちと一緒にものづくりを行い、社員たちの成長を通じて、お客さんはもちろん、地域の大人や子供たちに「なんだかワクワクするね」と思ってもらえるようなnojimokuを創りあげていきたい。
人は人に影響を受け、影響を与えることができる。
ハロウィンでオバケの扮装を全力でやりきってくる彼女たちや、自分の彼女を連れてきて「愛」Tシャツを着こなすチョー君を見て、何事にも全力で臨む姿勢には美しさや周囲への大きな影響力があることを知った。
世界は広い。
いろんな人との出会いは、影響の輪を拡げ、人生をより豊かにしてくれる。
僕も臆することなく、常に目の前の何事にも全力で臨みたいと思う。
世界はそれを愛と呼ぶんだぜ