
クロカベヒノキ
木挽座の外壁
【カメラマン】
今西浩文
外壁材に
黒いヒノキという
新常識
古くからの外壁材である焼杉。日本の街並みにしっくりと馴染むその風合いは、近年見直されています。そんな焼杉のような日本の家に合う壁板を桧で作れないか?桧の産地である熊野ならではの外壁材を作りたい。そんな素朴な思いからクロカベヒノキは生まれました。
私たちが着目したのは鉄媒染(てつばいせん)。鉄と酸、タンニンが起こす化学反応によって木や布を黒く染める技術。『お歯黒』で歯を染めるために古来より使われてきた歴史があり、木製品の染色にも使われてきました。お歯黒禁止令が出た当時、女性の虫歯が増えたという逸話があるほど、抗菌作用があることでも知られています。
欧米では自然塗料の水性への切り替え、焼成が必要な漆喰の不使用など、SDGsへの配慮が当たり前の流れになっています。クロカベヒノキの開発にあたり私たちが最初に決めたことは、環境負荷をなるべく小さくすること。化学反応だけで染まる鉄媒染は焼成が不要なことで環境負荷も小さく、焼かないため表面に触れても手が汚れません。
鉄媒染の三要素、酸、鉄、タンニン。この最適な組み合わせを探るため、実験を繰り返す長い試行錯誤が始まりました。元々タンニンの少ないヒノキを黒く染めるため、三重や和歌山で豊富にとれる柿渋を添加、鉄分には製材時に使用する帯鋸の廃棄する刃を使い、なるべく廃棄物をリサイクルしつつ最適な反応が起きる、nojimoku独自の「秘伝のレシピ」を編み出しました。
鉄媒染による染色は化学反応によるもの。媒染後は薄い灰色ですが、時間が経つにつれて黒く変色していき、反応にはおよそ1週間の時間が必要。それだけ手間や時間のかかるクロカベヒノキですが、塗装では出せないしっとりとしたツヤのある黒。まさにカラスの濡れ羽のような上品な漆黒仕上げ。本実加工のため雨仕舞もよくすっきりと納まります。
※自然素材を用いた染料のため、色合いには個体差が生じます。
クロカベヒノキは、紫外線などにより漆黒から焦げ茶色、さらに年月を経てシルバーグレーへと変化します。これは塗料の塗膜が剥がれるのではなく、熊野のヒノキを鉄媒染した“味を出す”ためのプロセス。デニムの色落ちのように、外壁も環境に応じて多彩な表情を育みます。雨や日差しの当たり方で変化の度合いは異なり、暮らしの中で風合いが深まっていきます。