〈2023年2月21日~22日にのじもくツアーにきてくれた鈴木晶子さんの感想です〉
きっかけ
私にとって木材は、身近な建築に使われていてほしい材料でありながら、少し扱いにくいイメージのある材料でした。建築学科では、美観や芳香、調湿機能などの木の良さよりも、化学的・物理的性質の面から建築に使用する際に注意しなければならないことを中心に学ぶからです。
野地木材工業さんやのじもくツアーについて知ったきっかけは、 都市環境やインフラについて学ぶ授業です。印象的だったのは、「林業と建築業の橋渡しをする存在が必要」ということでした。 建築家は木や森のこと、林業家は建築のことを知らないために、 森林や上質な木を活かしきれていないことを知りました。90分の講義はあっという間で、「将来建築に携わる身として林業や木材のことをもっと知りたい!」「製材する過程を見てみたい!」と いう思いでツアーに参加しました。
△建築材料の講義ノートの一部 細胞レベルで木材を学びます
破壊して強度を測る実験も…
1日目
熊野に到着してはじめに、原木市場を案内していただきました。
丸太がいっぱい!最初はスギとヒノキの判別もつかず、設計課題では何も考えず色々な部位にヒノキを使っていた自分が恥ずかしくなりました。
丸太には買主番号や1㎥あたりの値段が書かれていて、太さや節の少なさで値段が決まるそう。 断面の白い部分は成長しようとする部分で虫がつきやすため内装材に、赤い部分は腐りにくいため外装材にも使用 できます。野地木材では一本の木から柱・梁・床板など 様々な材を挽くことで、丸太一本全て使い付加価値を高めているのだとか。
構造材から内装材まで全て野地木材で製材したものを使えることが、大量生産が中心の大規模工場にはない強みの一つです。 木材は80%が水分で出来ているため、家を建ててからの変形や腐りを防ぐために十分に乾燥させることが重要だそう。温風をガンガン当てれば効率良く乾燥させられるけれど、木の成分も一緒に抜けてしまうため艶や香りがなくなってしまいます。野地木材では、天日で乾燥させたり、乾燥機の温風を微調整したりと、手間と時間をかけて乾燥させているそうです。ただ、香りや艶は水分の ように数値で規格化されていないため、お客様に良さを分かってもらうのが難しいのだとか…
私自身も、製材の過程を見て、職人さんのこだわりや技術の高さを目の当たりにしてからやっと木に対する「こだわり」の意味が分かった気がしました。
△加圧処理後水分を吐き出している木材たち
乾燥が終わった木材は種類ごとに並べられ、どこの工場で製材されたかがたどれるようになっていました。 同じ大きさの材でもそれぞれ色や木目、くせなど様々な 種類があり、それらを種類別で管理していることに驚きました。製品一つ一つに誇りと責任をもって仕事をされている皆さんはかっこよかったです。木も最大限良さを活かしてもらえてうれしいだろうなあ…と思いながら工場を後にしました。
以前は道の駅として利用されていた塗装工場も見学し ました。大きな機械で一気に塗料を吹き付ける映像を想像していると、 なんと一本ずつ塗装している!! 壁にはライトがたくさん設置されていました。これは 艶など表面の状態を目視で確認するためのものだそうです。大きな材料に対してこれほど繊細な作業が行われているとは予想外でした。ウレタン塗装は水分ははじくが呼吸できず、木の風合いも感じにくい一方で、 木に浸透する塗料であれば無垢の状態に近い木の風合いを感じられます。塗料もお客様の好みによって使い分けているそうです。
事務所を見学した際には、曲面の天井をつくる天井材のサンプルを見せていただきました。必要な材料を必要な数だけ納品するのではなく、顧客の好みに合わせて相談しながら使う材料を選んでいることを知りました。顧客と製材所ってこんなに近い関係にあるんですね!
実際に原木を伐採している現場も見せていただきました。本当にこの山の木で家ができているんだ… 熊野では九州と比べて2~3倍の苗木を植えたため、木と木の間隔が狭く、ゆっくりと成長する ことが特徴です。時間とコストをかけて緻密な年輪を持つ木を育てており、品質にバラつきが あるため、目利き次第で高品質な木をゲットできるのだとか。足場が悪く、天気にも左右される危険な環境で緊張感のある現場を想像しましたが、木や山や機械のことを教えてくれた職人さんはとても楽しそうでした。
のじもくツアーに参加した三人とも、岡田さんのお宅に泊めていただきました。地元の埼玉とは比べ物にならない星の数に驚き、 みんなでYouTubeを見たり朝ごはんを食べたり、修学旅行のようでした。岡田さんが用意してくださった朝ごはんがとても美味し くて心も体も温まりました。ありがとうございました!
2日目
朝7:30にスタートした二日目は、専務に熊野市を案内していただきました。午前は海コース、午後は山コース。熊野古道をはじめとした歴史的名所から、細すぎる山道を登った先にある大自然まで、熊野の 歴史と自然と街並みを体験しました。2000年前から変わらない景色は、初めて熊野に訪れた私でも将来に残していきたいと思える財産でした。専務に「豊かさってなんだろう」と聞かれたときに私はうまく説明できませんでしたが、ツアーの二日目は豊かさの詰まった一日だったと思います。海や山を見てぼーっとする時間は、無くても生きていけますが、必要で、大切な時間でした。
まとめ
私がのじもくツアーに参加して建築学生の目線で得られたことを三つ挙げます。
①木材はもっと自由に建築に使える! 木材は和室に使用されるイメージが強いですが、外装材や曲面の天井など、野地木材では建築家の提案するものをどのように実現させるかを研究し、新しい木材の使い方を考案していました。建築家と製材所の協働によって、国産の木材を活かした建築や、木材にこだわりを持つ人が増えていくのではないでしょうか。
②製材所の見学や地域を巡ることを通して、林業界や地方都市の現状や未来を学べる! 移動の車中では、野地専務と山野井さん・山口さん(ツアー参加者)とたくさんの話をしました。林業界の課題や熊野の資源の活かし方、働くことについてなど、それぞれの立場から意見を言い合う時間も とても貴重で充実していました。
③木材のこだわり方がわかる! ツアーに参加する前は、「木は見た目がどれも違うけど、木材にこだわるってどういうこと?」って思っていました。原木市場から製品になるまでの過程を見て、製材・乾燥・加工・塗装など、それぞれの過程で職人さんのこだわりがあり、その繊細な作業が、最終的に木材の見た目や寿命、香りに影響することが分かりました。内装材の表にあらわれる節や塗装方法など、こだわるポイントは様々であることを知ることができ、今後の設計課題では木材を使いたいと思いました。
2日間、大学の授業では知り得ないことをたくさん学び、木材や林業の魅力を体感できました。案内してくださった野地専務をはじめ、野地木材工業の皆様、本当にありがとうございました。