2025.01.15 Wed

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野地伸卓

濱田、のじもく卒業するってよ

#お知らせ, #トピック, #社長ブログ

2024年12月末をもって、13年一緒にやってきた仲間──濱田直子がnojimokuを退職した。
彼女から「辞めたい」と切り出されたのは2024年5月ごろだったと記憶している。そのとき、僕の中では社長としての感情と、野地伸卓としての感情とがぐるぐる渦を巻いた。

まず社長としては、濱田がいなくなった後の業務がうまくまわるのかが心配になった。のじもく設計室という彼女を中心に立ち上げた事業、そこに紐づくお客様や協力先、さらに彼女が社内で培ってきたノウハウ──そうしたものがパッと失われると考えると、なかなかの不安がよぎったのだ。

一方、僕個人としては「13年も一緒にやってきた仲間がいなくなるなんて……」という純粋な寂しさが大きかった。これまでにも社員の退職は何度も経験してきたし、そのたびにいろいろ思うところはあったが、濱田は社内でも特に存在感が大きかったし、僕としてもショックが大きかったのは事実である。

けれど、「もっとどっぷり設計をやりたい」という彼女の想いを知ってからは、社長というより一人の人間として「一級建築士を持っている彼女が設計業務に専念したいという気持ちはよくわかる。次のステップを応援しよう」と思った。nojimokuは製材所であり、日常業務として材木の加工や流通がメインになる。いくら“のじもく設計室”という舞台があっても、彼女の理想どおりに“ずっと設計だけ”に没頭できる環境とは言いがたい。転職を決意した時点で「今しかない」と踏んだのだろう。その意志を聞いたとき、僕は驚きつつも不思議と納得した。

幸い、彼女はnojimokuも取引している地域の工務店への入社が決まり、今度は設計士としての立場で、逆にnojimokuから木材を仕入れてくれる側になるかもしれない。考えてみれば、これはおもしろい話である。僕たちが今まで「こういう木はどうかな」と提案していたのに、これからは「こんな木材、できる?」と濱田から注文が来るかもしれないのだ。立場は変わったが、それでも熊野の木を届ける仲間として、これからも一緒に頑張っていける予感がある。

ちなみに、のじもく設計室はこれを機に幕を閉じることにした。のじもく設計室がやってきた仕事のアフターなどは、濱田が入社する工務店に引き継いでもらうことにした。そもそもこの部署は、濱田のスキルを存分に活かすために作った事業であり、彼女抜きでは成り立たない部分が大きかったからである。しかし、「nojimokuとして設計的な視点を持つこと」は、すでに社内のDNAとしてしっかりと根づいている。濱田がコツコツ社内に広めてくれた建築の知識や、図面を見る楽しさは、続々と社員たちに受け継がれてきた。濱田がいないからといって、それがゼロになるわけではない。逆に、ここから新しい“架け橋”の形が生まれるかもしれない。

思い返せば、僕が2019年にスイスの製材所を訪ねたとき、「製材所の社員でありながら建築家でもある存在がいて、その人が材木屋と建築家をうまく調整する」という話を聞いて目からウロコが落ちた。
材木屋はやれ「その加工は無理だ」「これはコストが合わない」と言いがちだし、建築家は「こうしたい」「ああしたい」と自由に構想を描く。その真ん中に、両方の言い分を理解して着地点を見つける人材がいると、プロジェクトが驚くほどスムーズに進むのだ。
僕はそれをnojimokuでも実現したいと思い、濱田に木材のことを徹底的に教え込んだ。それが見事にハマって、設計事務所や工務店との仕事が格段にやりやすくなったというわけである。

僕が視察に行ったスイスの製材所

もちろん、社員の退職には仕事面での負担や引き継ぎの手間など、残された社員にとって大変なこともある。なにより寂しい。
しかし、影響力が大きい社員が退職するときこそ、会社がガラッと変わる良い機会にもなる。これまでも社会の変化や環境の変化、会社の内外の変化などがあれば、そのたびに会社を最適化してきた。社員の入退社だって、その“変化”のひとつの現れである。nojimokuを経営する僕にとって、まさに「変化を見極め、最適化する」ことが経営者の本質的な仕事だと改めて感じている。

濱田がnojimokuに残してくれたものは数多い。彼女が種をまき、育んできた建築との橋渡しのノウハウや、社員たちへの影響はこれからも消えることなく続いていく。だからこそ、ここで立ち止まるのではなく、彼女がいない新体制でどう飛躍するかを真剣に考えるタイミングだと思っている。
nojimokuは製材所ではあるが、熊野の木を届けるだけで終わりたくはない。木にかかわるいろいろな人を巻き込みながら、新しいアイデアやつながりを生み出す──そういう“おもしろい”会社であり続けたいのだ。

退職というとどうしても寂しさが先立つが、そこには新しい風が吹き込むチャンスが眠っている。これまでも社員の退職がきっかけで、意外な成長や新規事業が誕生したことは何度もあった。
まさに「人が変われば会社が変わる」を繰り返し、nojimokuは今の形へと変化し続けてきたのである。世の中は日々変わり、その変化に合わせて僕たちも最適化していく。
今回の濱田の退職も、その流れのひとつに過ぎないのかもしれない。

僕たちnojimokuは、彼女が残してくれたものをしっかり抱きしめながら、これからも熊野の木を日本中、世界中へ届け、さらにワクワクする未来を築いていきたいと思う。

これを機に、これからnojimokuにどのような変革が起こるのか。乞うご期待頂きたい。

昨年の忘年会にて
会長から餞(はなむけ)の歌
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